Sun Microsystemsが生み、コミュニティによって鍛え、育てあげられてきた「Java」というプラットフォームは、今やさまざまな分野のコンピューティングにおいてなくてはならないテクノロジーとなっている。OracleによるSunの買収以降も、Javaは引き続きコミュニティの尽力とOracleの...
Sun Microsystemsが生み、コミュニティによって鍛え、育てあげられてきた「Java」というプラットフォームは、今やさまざまな分野のコンピューティングにおいてなくてはならないテクノロジーとなっている。OracleによるSunの買収以降も、Javaは引き続きコミュニティの尽力とOracleのリーダーシップによって発展を続けている。
Javaに関わるコミュニティと開発者にとって、最新のJavaテクノロジーと今後のロードマップに関する情報を一挙に入手できる年に一度の大イベント「JavaOne 2012」が、今年も9月30日から10月4日にかけて、米国サンフランシスコで開催された。
今回、日本オラクルからJavaOne 2012に参加したシニアJavaエバンジェリストの寺田佳央氏に、今回のJavaOneにおけるハイライトについて話を聞いた。
原則を守りつつイノベーションを続ける「Java」の未来
JavaOne 2012のテーマは「Make the Future Java」だ。日本語にすると複数の訳が可能なこのフレーズについて、寺田氏は「Javaの未来を創造する」という意味を引きつつ「今年のJavaOneでも『未来のJavaの姿』が、今も確実に築き上げられていることが、さまざまなプログラムによって示されていました」と話す。
主に基調講演においては、今後のJavaプラットフォームが目指す方向性として「プラットフォームの完全性」「近代化とイノベーション」「開発生産性の向上」「オープンで透明性のある進化」「コミュニティ活動への積極的な参加」「品質とセキュリティ」という6つのキーワードが示された。
「Javaは既にエンタープライズサーバからクライアント、組み込み環境までを包括した巨大なプラットフォームになっています。プラットフォームとしての『完全性』というのは、これらすべてのターゲットに対する一貫性を今後も維持していくということを示しています。その一貫性を維持しつつ、進化は止まることなく、今後も続いていきます。『近代化とイノベーション』というのは、時代のニーズに合った技術への対応を、常に継続していくことを示しています。具体的には、急速な勢いで普及を続けているマルチタッチデバイスや、HTML5への対応といったトピックがあります」(寺田氏)
開発プラットフォームとしての側面を持つJavaにとっては「開発生産性」のさらなる向上も、重要なテーマのひとつだ。Java SE 8においてLambda式による記述を可能にする「Project Lambda」をはじめ、Java EE 7のメッセージングAPIであるJMS 2.0でのコーディングのシンプル化など、さまざまな分野で開発生産性の向上のための取り組みが続けられている。
あえてJavaOne 2012のキーワードとして「オープンで透明性のある進化」が挙げられている点については、違和感を感じる人もいるかもしれない。そもそもJavaは、ベンダーの枠を超えたオープンな標準化プロセスに基づいて、関連技術の開発や仕様の策定が行われることが前提となってきたはずだ。寺田氏によれば、そうした「オープンな取り組み」を、より多くのJavaに関わる人々に開放していこうという思いが、今回のJavaOneでは強く見受けられたという。
「今回のJavaOneでは『透明性のある開発』という言葉を多く聞いたのが印象的でした。たしかに、従来からJavaはオープンなプロセスの中で開発が行われていましたが、今回、JCP(Java Community Process)自体の改革を行う中で、これまでエキスパートグループの間で閉じてしまいがちであった議論の流れや仕様化のプロセスを、より広範なJava開発者に開放し、参加してもらいたいというメッセージが強く打ち出されていたように感じます」(寺田氏)
寺田氏によれば、こうした「さらなる透明性の向上」に向けた取り組みは、Oracleがコミュニティにおけるリーダーシップをとるようになってから、より積極的に進められている印象を受けるという。Javaの仕様策定に関わるプロセスの透明性が高まることは、発展の基礎となるコミュニティ活動の活発化や、Javaに関する情報の流通量の増加につながっていく。そして、コミュニティ内で生まれる情報の増加は、さらなるJavaの「品質やセキュリティ」向上に向けた礎となっていくはずだ。
この正のスパイラルをさらに加速させるために「日本オラクルでも積極的にJavaに関する情報を提供しながら、日本独自の勉強会やイベントの開催を通じて、日本のコミュニティへの貢献を行っていきたいと考えています。今年の8月に開催したイベントでも、米国本社のJavaエバンジェリストのセッションとオランダのJavaチャンピオンによるセッションもあり、盛況でした。また、Javaユーザーの方々が、自ら積極的に情報を発信していきたいと思えるような環境も作っていけるよう、努力していきます」(寺田氏)という。
より質の高い技術を「標準」とするために
JavaOneでは、Javaプラットフォーム全体について、その時点での最新の状況や、今後のロードマップといった情報がひとまとめで公開される。それが、Java開発者がJavaOneに参加すること最大のメリットでもある。
今回のJavaOneでは、イベント開催前にJava SEやJava EEに関するロードマップの一部変更が発表されたこともあり、そのアップデートに関する情報もトピックとなった。具体的には、Java SEのモジュール化促進に対する取り組みである「Project Jigsaw」が、当初の予定であったJava SE 8(2013年後半リリース予定)からJava SE 9へとシフトした点や、Java EEの「クラウド対応」を2013年春にリリース予定のJava EE 7から、2015年リリース予定のJava EE 8へと延期するといった点だ。
特に「クラウド対応」については、早くよりJava EE 7の目玉となる新機能としてアピールされていただけに、延期の報を残念に感じた人も多いのではないだろうか。しかしながら、こうした標準化の「延期」について、「ネガティブな状況ととらえる必要はない」と寺田氏は言う。
Javaの仕様が「標準」として策定され、そのプロセスがオープンであることを考えれば、「標準化」における慎重さは、むしろ、その過程が健全に進められていることのひとつの証左であるととらえることもできるからだ。
「現時点でのJava EEでのクラウド対応には、コミュニティの中にも『時期尚早である』とする意見が少なくなかったのです。Javaが標準であることを標ぼうしているのであれば、議論が尽くされていない状態の技術をそこに加えるというのはふさわしくありません。不完全な部分については、リリースのタイミングを遅らせてでも、それぞれの分野のエキスパートがさらに経験を積んで得た知見と議論を元に、より高い品質で組み入れていくべきだという判断を行っています。Project Jigsawについても同様で、今回の判断については、コミュニティの中にも支持する声が多く見受けられました」(寺田氏)
JavaOne 2012での新たなアナウンス
今回のJavaOneで新たにアナウンスされたものの中で、寺田氏が注目したのは「Project Nashornのオープンソース化」「JavaFX for ARM」「JavaFX Scene Builder 1.1 for Linux」「Project Easel」「Project Sumatra」といったトピックだ。
Project Nashornは、Java VM上で動作する高パフォーマンスなJavaScriptエンジンの提供を目指すものである。今回、このエンジンをオープンソースプロジェクトであるOpenJDKに組み込んで、その元で開発を進めていくという方針が発表された。オープンソース化は年内をめどに実施される予定だという。
JavaFXは、Java SEにおいてリッチUIの提供を可能にするフレームワークである。今回、タブレットデバイスなどで多く採用されているARMプロセッサ向けのJavaFXの提供が開始されるとともに、Visual Basicライクな画面作成を可能とする「JavaFX Scene Builder」のLinux用プレビュー版がリリースされた。
Project Easelは、オープンソースのIDEであるNetBeansのバージョン7.3に含まれる予定で、ブラウザ向けのウェブアプリケーション開発に特化した支援機能を提供するものだ。HTML5、JavaScript、CSS3といったコードの補完機能や、Chromeプラグインを介したブラウザとのダイナミックな連携によるデバッグ機能などが提供される予定という。
また、Project Sumatraは、JavaからGPUを直接操作できるようにしようという取り組みだ。高いパフォーマンスを要求されるアプリケーションにおいて、GPUを活用した並列処理、マルチコアプロセッシングなどの恩恵を、Java開発においても受けられるようになるという。
これらに加えて、寺田氏は今回のJavaOneで新たな情報が公開されていた「Project Avatar」について、「今後の動向に注目すべき取り組み」だと紹介した。
Project Avatarは、現時点でOracleの社内のみで研究が進められている実験的なプロジェクトである。昨年のJavaOneで名前が公表された段階では「Java EEに関するHTML5アプリの構築フレームワーク」であること以外、詳細が明らかにされていなかった。今回のJavaOneのテクニカルセッションでは、そのアーキテクチャについて、より具体的な情報が明かされたという。
開発者はAvatarによって、ブラウザで表示されるクライアントのビューと、サーバ側で提供するビジネスロジックを共にJavaScriptで実装できるようになる。また、サーバ・サイドのサービスはエンタープライズ実行環境として長年豊富な実績と信頼のあるGlassFish,WebLogicといったアプリケーション・サーバ上で動作が可能となるため、サーバ・サイドJavaScriptプログラムの実行環境として最適でサーバ・サイドJavaScriptプログラムの実行時の信頼性が大幅に向上する。
またAvatarは新たに Thin Server Architecture(TSA)という概念を取り入れた。今までMVCでいうビューとデータモデルの構成を全てサーバ側で行い、サーバで構成されたWebページをクライアントに対して提供していた。これに対しTSA はビューとデータモデルの構成をクライアント側に委譲し、サーバ側の軽量なサービスを通じて必要なデータを必要な時に入手し、結果としてデータ通信量を大幅に削減する事ができるようになる。クライアントとサーバ側の通信にはRESTful, Server-Sent Event, WebSocketが利用可能だ。
サーバ側の実行環境は既存のJava EEのコンテナ上に、Project Nashornによって進められているJava VM上で稼働するJavaScriptエンジンを組み込むことで、JavaScriptのコードから既存のエンタープライズJavaの資産も利用できるようになる。
また、JavaScriptの開発者にとっては、今までサーバ側の実装も行いたかったがJavaについて詳しくないといった開発者も、サーバ側の実装が可能となり、今持つスキルをより広く生かす事ができるようになり、その門戸が大きく開かれる可能性があるという。これまで、クライアント側のアプリ開発技術ととらえられていたJavaScriptが、サーバ側での開発にも活用できるようになることで、開発者には、シンプルなスキルセットを使った、より高度なウェブアプリケーション開発への門戸が開かれる可能性があるという。
このProject Avatarが、今後どのような形で展開するかについては、現時点では「全くの未定」(寺田氏)だが、その動向にはひきつづき注目しておきたい。
日本オラクルでは、今年から来年にかけて、今回のJavaOneでの成果をもとに、最新のJava動向を紹介するイベントを、さまざまな規模で展開していく予定だ。また、サンフランシスコでの次回のJavaOneも、既に2013年9月22日から26日にかけて開催されることが決まっている。寺田氏は「JavaOneは、Javaに関する知識を得る勉強会としての意義もさることながら、世界中のJava開発者との交流や意見交換を楽しめる場としても貴重なイベントです。ぜひ、一人でも多くの日本のJava開発者に、来年も参加していただきたいと思っています」と語った。
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